このウェブマガジンのタイトルは「マドレーヌ」だけれど、パリを舞台にした絵本といえば、真っ先に思い浮かぶのは『マドレーヌ』シリーズかもしれない。

パリの寄宿学校で暮らしている12人の女の子たちの中で、いちばんおちびさんだけど、いちばん元気なのがマドレーヌ。ちなみに「マドレーヌ」という名前は、作者のルドウィッヒ・ベーメルマンスの妻の名前から取ったのだそう。1作めの『げんきなマドレーヌ』が刊行されたのが1953年だから、いまや3世代にわたって読み継がれているロングセラー。ちっとも色あせないのは、なんといっても洒脱な線で描かれた絵の魅力のせいだろう。

寄宿学校が「つたのからんだ あるふるいやしき」というのも素敵だし、そこで暮らす12人の女の子たちも「なにごとにもおどろかない」ミス・クラベルのもと、実にいきいきと暮らしている。「2れつになって、パンをたべ」「2れつになって、はをみがき」「2れつになって、やすみました」、リズミカルに畳みかけるような語りに乗ってページをめくると、12人の女の子たちが「2れつになって」パリの街へ繰り出していく。常に「2れつ」というのが、なんとも愛らしくユーモラスだし、そこからどうしてもはみだして騒動の中心になってしまうマドレーヌの自由奔放さが、なんともみずみずしい。

おなかが痛くて、夜中にわーわー泣いたくせに、盲腸の手術をすると、今度は手術の傷をみんなに見せびらかしちゃう。あんまり得意げだから、お見舞いに行ったみんなが「もうちょうをきって、ちょうだいよー」と泣き出しちゃうっていう。そう言えば、子どもの頃、病気になると特別に優しくしてもらえるのがうらやましかったな。

『地下鉄のザジ』にしろ『アメリ』にしろ、パリの女の子たちは好奇心たっぷりで冒険心も旺盛。いちばんちびだけど、いちばん生きのいいマドレーヌも、とってもたくましい。『マドレーヌといぬ』では、セーヌ川で溺れそうになった自分を助けてくれた犬のジュヌビエーブが寄宿舎から追い出されると、椅子に飛び乗って「ジュヌビエーブほど、えらいいぬはいないわ。あなたには、てんばつがくだりますから!」と猛抗議。大人にも負けていないのである。エッフェル塔、オペラ座、ノートルダム大聖堂、チュイルリー公園、モンマルトルの丘……背景に描かれたパリの風景も、この絵本のもうひとつの魅力。パリを旅する時の憧れでちょっと心がほどける感じを思い出すのにも、うってつけだ。

なんだか窮屈な気持ちになった時、川島小鳥がひとりの女の子の一年間を撮影した写真集『未来ちゃん』を開きたくなるのだけれど、『マドレーヌ』にも、同じ匂いを感じる。まだ男だとか女だとかも関係ない、ただのおちびの女の子だった頃、「2れつ」をどうしてもはみだしてしまうマドレーヌのように、心はこんなにも自由で勇敢だった。大人があとづけで押しつけてくる「少女」のイメージとも無縁な、無敵の女の子がここにいる。

 

ルドウィッヒ・ベーメルマンス著 瀬田貞二訳 福音館書店刊 各¥1,430

文:瀧晴巳