フランスのクチュリエたちの世界に息づく「サヴォアフェール」とは……? ここではフランスを代表する3つのメゾンのドキュメンタリーをご紹介。「サヴォアフェール」の世界に触れてみよう。

 

エルメスの「一生モノ」の製品を創り出す職人たちに迫る。
『ハート&クラフト』

 

© ‘’Hearts and Crafts’’ A film by Frédéric Laffont and Isabelle Dupuy-Chavanat, 2011

フランスには「サヴォアフェ―ル」という言葉がある。フランス語でいう「savoire=知る」と「faire=作る」という単語から派生した言葉だが、熟練された職人の仕事、日本流にいえば「匠の技」という表現が近いかもしれない。

エルメスの工房で働く職人たちを追ったドキュメンタリー『ハート&クラフト』は、まさに「サヴォアフェール」の極意を知るにはうってつけの映画だ。

1837年、馬具工房として創業したエルメスは、20世紀初頭から皮革製品を手がけて成功し、さらには時計、服飾、アクセサリー、香水などを手がけるラグジュアリーメゾンに発展した。日本でも圧倒的な人気を誇る「ケリー」や「バーキン」などのバッグをはじめ、その高品質の製品は職人による手仕事によることでも知られている。

本作の監督イザベル・デュピュイ=シャヴァナとフレデリック・ラフォンは、鞍、バッグ、シルク、ガラスなどフランス各地に点在するエルメスの各部門の工房を巡って、さまざまな職人と出会い、対話し、その仕事をカメラに収めた。ひと口に職人といってもその出自も人となりもさまざまだ。地元の者から移民や亡命者、また祖父の代からの職人家系の者もいれば、中年に差しかかってからの転職組もいる。そんな彼らが誇りを持って働いている姿が美しい。「手仕事は一生の仕事」「職人とは魂を込めて手仕事をする人」など滋味深い名言も心に響く。本作を観れば、エルメスの多くの製品が「一生モノ」といわれる理由が理解できるだろう。

 

『ハート&クラフト』 ●監督/フレデリック・ラフォン、イザベル・デュピュイ=シャヴァナ ●2011年、フランス映画

私的な空間やアートコレクションから紐解く、「モードの帝王」の実像。
『イヴ・サンローラン』

20世紀最大のファッションデザイナーのひとり、イヴ・サンローラン。「モードの帝王」と呼ばれた彼についての映画はいくつもあるのだが、この『イヴ・サンローラン』は、彼の公私に渡る長年のパートナーであるピエール・ベルジェによるインタビューを元にした、貴重なドキュメンタリーである。

冒頭は、イヴによる引退会見から始まるが、そこで自らの言葉で語られるように、18歳でディオールの元で働きはじめた彼は、ディオールの急逝により21歳で主任デザイナーを任され大成功を収めた後、44年間、ファッション業界の最先端で活躍してきた。そんな彼を支えてきたのが、62年にイヴ・サンローランを一緒に立ち上げた実業家であり、恋人だったベルジェである。アートとモードを融合させた「モンドリアンルック」や北アフリカにインスパイアされた「サファリルック」など、さまざまな革命を起こしてきたイヴだが、2002年に引退するまでにはさまざまな浮き沈みを経験してきた。その姿を間近で見てきたベルジェが、赤裸々にふたりの奇跡を語る。

映画は、2008年にイヴが癌のため死去したことを受けて開催された絵画や彫刻のコレクションのオークションをハイライトに展開されるが、クリエイション源ともなったイヴの愛した膨大なアートコレクションには目を見張るものがある。伝統的な職人の手仕事によるクチュールの世界とアートを結びつけ、現代的なエレガンスを構築した天才は、女性たちに美しさだけでなく、パワーを与えた。

また、彼の好きなものだけを集めたパリのバビロン通りのアパルトマンや静かに過ごすための田舎家“シャトー・ガブリエル”、そして70代に重圧から逃れるように通ったモロッコのマラケシュの家など私的な空間を、ベルジェの解説付きで拝観できるのも本作ならではといえるだろう。

 

『イヴ・サンローラン』 ●監督/ピエール・トレトン ●出演/ピエール・ベルジェ、イヴ・サンローランほか  ●2010年、フランス映画 ●DVD¥5,170 ●発売元/ファントム・フィルム ●販売元/アミューズソフト ©2010 LES FILMS DU LENDEMAIN – LES FILMS DE PIERRE – FRANCE 3 CINEMA

クラフトに情熱を注ぐ唯一無二のファッションデザイナーの素顔。
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファッブリックと花を愛する男』

 

 

80年代に起こった新しいモードの潮流、「アントワープの6人」のひとりとして注目されて以来、第一線で活躍するベルギー出身のファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。祖父の代から続く高級品ブティック経営の家に生まれ育ち、アントワープ王立芸術アカデミー・ファッション科で学んだ後、政府のプロジェクトによりアン・ドゥムルメステールらともに「アントワープ・シックス」としてロンドンのファッションウィークに登場し、成功の足がかりを掴んだ彼は、90年代にはメンズ、レディースともにパリコレクションで発表を開始した。

生地、色、プリントなど独創的な彼のクリエイションは、時代に左右されることなく、世界のファッショニスタやセレブリティたちを魅了しているが、『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』は、そんな唯一無二のデザイナーの創作の裏側に迫る初の本格的ドキュメンタリーだ。2015春夏レディースコレクション、2016/2017秋冬メンズコレクションの準備期間だった約1年に密着した本作は、アトリエや刺繍工房などにまでカメラが潜入。クラフトマンシップにこだわる彼の、創造の核の部分もスクリーンに登場する。

さらに興味深いのは、アントワープ郊外にある広大な敷地に建つ自宅で過ごす彼の素顔が垣間見られることだ。自然を愛で、美しい花々に囲まれて過ごす時間を大切にするドリスの姿からは、彼のクリエイションは生き様そのものであることが確信できるだろう。

監督は『マグナム・フォト 世界を変える写真家たち』(1999年)のライナー・ホルツェマ―、音楽はレディオヘッドのコリン・グリーンウッド。映画作品としてのクオリティも高く、ファッショニスタでなくても一見の価値がある。

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』 ●監督・脚本・撮影・製作/ライナー・ホルツェマー ●出演/ドリス・ヴァン・ノッテン、アイリス・アプフェル、スージー・メンケス、パトリック・ファンヘルーヴェほか ●2016年、ドイツ・ベルギー映画  ●DVD¥4,180 ●発売元/ニューセレクト ●販売元/アルバトロス © 2016 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE

文:立田敦子