『パリと生きる女たち』は、14歳から70歳まで20人のパリジェンヌたちに生き方やライフスタイルについて、率直な言葉で語ってもらったインタビュー集。
20人の中には、パリ左岸にある伝説の書店「シェイクスピア・アンド・カンパニー」の2代目店主、シルヴィア・ホイットマンもいる。彼女の父、ジョージ・ホイットマンはアメリカの知識人で、戦後パリの街に恋をして、この街に暮らすことを決めた。「パリの人はみんな詩人で、パリの街は詩そのもの。そんな街に暮らしたかったんですって」。1951年に開いたこの書店の常連客の中にはアレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズもいた。ジェイムス・ジョイスが『ユリシーズ』を生み出し、ヘミングウェイの『移動祝祭日』にも登場する。天井の梁には、こんな言葉が刻まれている。“見知らぬ者をもてなすことを忘れるなかれ。知らぬ間に天使をもてなしているやもしれぬのだから”。2階はアパルトマンになっていて、ここに泊まった作家たちは自分の人生について綴った文章を残していくのが習わしだという。「ロンドンでは、一番大切なものはお金なのね。ここでは、一番大切なものは、詩なのよ」。この書店に興味を持った方には『シェイクスピア&カンパニーの優しき日々』もオススメしたい。

セーヌ川に浮かぶ船の上で暮らしているのはジャーナリストでミュージシャンのアナ・ライナルト。両親もかつて船で暮らしていた。1968年の5月革命の後、芸術家や学者たちがこぞって船上生活をしていたのだ。「みんな、人道主義的な心の持ち主だったわ。この家の扉はいつでも誰にでも開かれていた。あれこそ船上生活者らしい生き方だったと思う」
知的で自分の言葉を持っている、彼女たちは皆、タダモノではない。パリジェンヌを体現できる精鋭20人を選りすぐりましたという感じがしてくる。パリの歴史の生き証人であり、この街が見てきた夢の後継者でもある。と言っても、生粋のパリ育ちの人だけではなく、移民だった人も多い。ブルジョア・ボヘミアンの略「bobo」と呼ばれる人たちが多く住む11区で暮らすノエミ・フェルストもロサンジェルス生まれ。香港とロンドンで暮らした後、7歳の時にパリに移り住んだ。母親になった彼女が今、情熱を注いでいるのはフェミニズム運動。「9区が完全にスノッブな高級住宅地になってしまって、逃げだしてきたの。グルテンフリーのケーキを売る、ウッディな店構えのカフェばっかりになっちゃったんだもの。ここは、パリの人たちがわいわい集まっていつもにぎやかだし、いろんなカルチャーが集まってくるところ。お気に入りのマルシェもカフェも花屋もあるわ」

フレンチ・ロリータ枠を体現しているのが14歳のクリスタル・マレー。父親はミュージシャン。子どもの頃、世界中を旅してまわった。14歳でクラブデビューしたのを機に、今では女友達と一緒にモードなパーティーシーンを牽引するファッションアイコンになっている。彼女は言う。「自分に満足しているわ。ありのままの自分を愛してる。私にとってパリジェンヌであるということは、つまり、そういうことだと思うの。自由で、やりたいことをやって。まあ、そんな感じかな」
なぜ、私たちはパリに憧れるのか。パリジェンヌとは、つまりどんな人を指すのか。その答えが、この本には詰まっている。
ジャンヌ・ダマス、ローレン・バスティード著 徳山素子訳 アノニマ・スタジオ刊 ¥2,200
文:瀧晴己